ヨーロッパメーカーのEV化が加速しているとは言え、現時点での主力は間違いなく内燃機関、エンジンであります。
我がBMWもEV専門ブランドを構築していますが、今のところi3、i8の2モデルに留まり、尚且つ価格設定が割高で庶民にとって現実的な選択肢にはなっていません。
現在のBMW主力ラインナップはガソリンエンジンと、最近はディーゼルエンジンにもかなり力を入れていますね。どのモデルにもガソリンとディーゼル、ふたつのエンジンが用意されることがほとんどです。
ガソリンエンジンモデルには118i、320iのようにモデルナンバー後に「i」が。ディーゼルエンジンには「d」を付与するのが慣例となっています。
同モデルにガソリンとディーゼルがラインナップされていると、どちらも魅力的なだけにかなり迷いますよね。私自身は迷わず1シリーズのディーゼル「118d」を選んだクチですが、とは言え、ガソリンの118iの出来具合というのも気になる所ではあります。
今回運良く118iを運転する機会を得たので、「i」と「d」、それぞれのフィーリングを比較してみたいと思います。
比較車は1シリーズ118dと118iですが、他シリーズにも共通する点が多々あるはず。是非参考に。
BMW 1シリーズ118iと118dを比較!
登録済み未使用車として中古販売されていた118d Mスポーツを購入してからまだ5ヶ月あまりですが、登録月が11月だったようで早々に1年点検の運びとなりました。その際に用意された代車が118i Style。
Mスポーツは17インチホイール&Mスポーツサスペンションと、通常より硬めのセッティングになる点がこの118i Styleとは異なります。が、エンジンには手を加えていないのでガソリンとディーゼルの違いを図るには絶好の機会でした。
まずは気になるスペック比較からいきましょう。
ガソリンとディーゼルエンジン比較
118d | 118i | |
---|---|---|
排気量 | 2.0L | 1.5L |
形式 | 直列4気筒ツインパワーターボ | 直列3気筒ツインパワーターボ |
最高出力 | 150ps/4,000rpm | 136ps/4,400rpm |
最大トルク | 320Nm/1,500-3,000rpm | 220Nm/1,250-4,300rpm |
0-100km加速 | 8.1秒 | 8.7秒 |
燃費 | 22.2km/L | 18.1km/L |
同じ118とは言え実はガソリンは1.5Lの、いわゆるダウンサイジングターボに属するエンジン。
対するディーゼルは2.0Lのターボ。
出力、トルク、排気量、燃費すべてにおいて数値的にはディーゼルが優れていますが・・・話はそこまで単純ではありません。
普段乗り慣れた118dから118iに乗り換えて走り出すと、まず最初に感じたのは発進のスムーズさ、力強さ。

そう。
確かに、ディーゼルの方が発進後ぐぉーっと力強く加速する感触があるし、それがトルクが大きいディーゼルエンジンの魅力だと言われていますよね。
がしかし。
上記のスペック表をよーく見てみると118iが1,250rpmで最大トルクである220Nmを発揮し始めるのに対して、118dは1,500rpmで320Nmの最大トルクを発揮し始める。もちろん絶対値で見ればディーゼルエンジンに分があるのだけれど、より低回転で最大トルクを発揮するガソリンエンジンの118iの方が実は出だしがスムーズ。
例えばブレーキオフのクリープ状態での進み方を見てみると一目瞭然。ディーゼルの場合クリープのみでの車庫入れ、ちょっとした段差の乗り越え等々は明らかに力不足だけれど、ガソリンエンジンだと比較的スムーズに事が運んだりする。
この延長でいざ発進時、ディーゼルは最初の、例えば時速10kmまでの「1歩目」の加速が非常に弱い。クルマの重さを感じる様な感覚。対してガソリンエンジンはこの部分の加速が実にスムーズ。ちょっとアクセルオンしただけでグイッと前に出る。もちろん1歩目を過ぎ「2歩目」に差し掛かるとディーゼルエンジンの方が明らかにその豊かなトルクを発揮し始めるのだが、この最初の1歩目の力強さは明らかにガソリンに分がある。そして何と言っても極低速域が扱いやすい。
エンジンフィーリング
例えば「止まる・曲がる・進む」を高頻度で繰り返す混み入った街中で、最高速度が30km程にしか達しない極低速走行時なんかは、ガソリンエンジンである118iの方が扱い易いと感じた。
アクセルちょい乗せでも充分前に出るし、踏み過ぎてもガソリンエンジンの特性上そこまで強烈に加速しないから制御がし易い。
対してディーゼルの場合、ちょっとアクセルを操作する程度だと力が弱く、かと言って少し大きめに踏むと今度はその力強いトルクが出過ぎて前に出過ぎる。よって、停止・発進、90度向きを変えるような曲がり角が連続する市街地ではどうも扱いづらい。踏まなきゃ前に出ないけど、踏みすぎると出過ぎる。この微妙なアクセルワークが意外に煩わしい事に気付いた。

逆に言うとガソリンエンジンはこの辺りの扱いがし易い。
よく「停止と発進の頻度が高い日本の道路事情ではディーゼルエンジンが合う」と言われます。確かにバイパスや国道などの大きな道ではそうでしょうが、古い市街地なんかに入るとこの決まり文句は当てはまらない。そこは断然ガソリンでしょう。という印象を強く持った。
実はディーゼルエンジンは重く、118iと118dでは他の装備内容が全く同じにもかかわらず車重が50kg違う。ひと1人分程も違うのだ。それがガソリンエンジンの出だしの軽さを助けている面も多々あるでしょう。
逆にこういう走行環境では重さも手伝ってディーゼルの燃費は中々伸びませんね。トリップメーターでこういう走行時のみの短距離データをとってみると、燃費が10kmちょっとしか出ない事もしばしば。ディーゼルが最も苦手とする走行パターンなのでしょう。
ディーゼルの良さ、ガソリンの良さ。
極低速域ではその魅力をいまいち発揮できないディーゼルエンジンですが、市街地を抜けワインディングが続く緩やかな上り路では、その豊かで力強いトルクを存分に発揮します。
ツーリング環境下では圧倒的にディーゼルが気持ちいい。エンジンが50kg重い=フロントが重いわけですが、それが逆にドッシリした安定感を生みます。そしてその重さを微塵も感じさせない力強い加速。エンジンが太い感触。とでも言いましょうか。太く大きな力で押し出されながら走っているような感触は気持ちいいの一言に付きます。これくらいの速度域になってくると燃費も伸びできますね。
対してガソリンエンジンの方は車重が軽いことと、3気筒エンジンの回り方も合わさってヒラリヒラリと軽やかに走り抜ける感覚でしょうか。フロントが軽い分スッ・・と向きを変える感じもしますし、エンジンを高回転まで回す楽しさと言うのもありますね。ただ、良くも悪くも軽快というか、ディーゼルに感じるような「太さ、大きさ」は無いです。
1.5Lエンジンという事もあるんでしょうが、小さいエンジンをぶんぶん回して、能力を最大限引き出して操るようなそんな楽しさははあります。しかし、ディーゼルで感じる「余力」というか大きいな力を操る感触とは違います。やっぱり小さいエンジンなんだな。という感じです。エンジン能力を最大限発揮して走る感覚を街中でも味わえるのは魅力ですが、ツーリングに出ると少々物足りない。そんな印象です。逆にディーゼルは街中で最大限の能力を発揮するにはオーバースペックな分、ツーリングに出ると思う存分駆け抜ける。そんな感じでしょうか。
こればかりはどちらにも捨てがたい楽しさがありますね〜。普段の生活の中から充分に走りを楽しめるガソリン。普段はおとなしく、休日ドライブが待ち遠しいディーゼル。
どちらも甲乙つけがたい出来栄え。結果、どちらもオススメです!
追記:118i Mスポーツとの比較
118dリコールに伴い、代車として再びガソリンエンジンの118iを運転する機会を得ました。しかも今回は自車と同じMスポーツ。タイヤサイズ、サスペンションも同じで違うのはエンジンのみ。より正確に比較していきたいと思います。
やはり感じるたのは出だしの軽さ、スムーズさ。重ね重ね50kgの重量差というのはかなり大きいのではないかと感じます。Mスポーツだったのでワインディングに出てみるとより、その性格がはっきりと現れました。
1.5L ・3気筒のエンジン自体は、2.0L・4気筒ディーゼルにパワー的に劣ってしまいます。最高出力は14ps、最大トルクは100Nmも少ない影響は如実に感じます。確かに前述したように「回す楽しさ」があるのは事実ですが、これは「回せば回すほどパワーが出て楽しい」という意味ではなく、「エンジン性能の限界まで使いきる」種の楽しさです。レッドゾーンまで回したからと言ってトルク・出力が増すわけではないものの、与えられた能力を余すこと無く使い切る、そんな面白さはあります。
元F1ドライバーで現インディカーレーサーの佐藤琢磨はホンダの軽2シーター「ビート」をかれこれ20年あまり愛車にしており、その理由は「クルマの能力を限界まで使い切って走る面白さ」だと述べていました。
まさに118iMスポーツの面白さもこれと同じで、日本の公道レベルでも充分にエンジンを回し切る事が出来る。そんな楽しさがあるエンジンです。
こういう楽しさを知ると、例えばV8、V12のモンスター級スーパーカーを日本で走らせて果たして楽しいのだろうか?という疑問を感じますね。クルマというのは「全開にして」得られる楽しさも大いにあり、小さいクルマはこういう楽しさを普段から味わえる事が最大の魅力でしょう。
とは言え、パワー的には118dの方が豊かなのは明らかで、いざ愛車に乗り換えると湧き上がる豊かなトルクに惚れ惚れしてしまったのもまた事実ですが。
118dより前が軽い118i
エンジンは非力ながらも回す楽しさがあり、そしてもう一つ特筆出来るのはディーゼルより50kg軽いことからくる重量バランスの良さです。
118dの車重は1,480kgで、前軸重760kg:後軸重720kgで前後重量バランスは51:49。
対する118iは1,430kgで、前軸重730kg:後軸重700kgで前後重量バランスは51:49。
前後比自体はほぼ同等ながらも前軸重は30kgの差があり、これが118iのハンドリングに大きな影響を与えています。
例えば交差点を左折するときでさえも「おやっ?」と分かるほどクルッと回ります。ワインディングに入れば右に左にスッスッと、ノーズの入りが明らかにイイ。前軸重が30kg軽いことによって、回転力が高い。
クルマ全体のバランスは数字以上にイイ。しかしその軽快さが時として安定の無さに繋がる局面もあり、そうなると118dのどっしり感も恋しい。
そして経済性
そして無視できないのが経済性。1.5Lガソリン(18.1km/L)と2.0Lディーゼル(22.2km/L)と、燃費自体はさほど大きな差はないものの、軽油とハイオクの1Lあたり30円〜40円の圧倒的価格差は大きい。
トルクとパワーに勝る上に経済性も上。となるとやはりディーゼルエンジンの118dが最強でありながらも、118iの軽快感も捨てがたい。
結果、どちらもそれぞれに秀でた部分があり、それぞれに楽しい。どちらに乗っても後悔しない、いい車なのでした。